私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
第十五章・拉致事件
雪村達は、必死になって風間を捜索した。
王宮の獄。或屡の私邸。或屡と繋がりのあるセバスや他の役人の邸宅。或屡と手を組む盗賊団や、後ろ暗い関係の者達の根城。
今まで手にしてきた或屡の情報を頼りに、様々な場所を探したが、風間の手掛かりすら一向に掴めないでいた。
一方で、功歩軍は美章の甲説という国境沿いの要塞を落としたが、猿(エン)という町に進行途中で、美章軍と戦闘になり、黒田軍を敗走させるも、赤井セイ率いる赤井軍に敗退。そのまま功歩へ撤退した。
功歩軍に大きな死傷者は出なかった。
雪村は、結と留火と共に夜の山の中を駆けていた。
曇天の空には、星一つ見えない。
隣に誰か居ても分からないほど暗い闇夜の中で、喰鳥竜は得意とする夜目を光らせ、乱立する木々を避け、強靭な脚力で岩肌を跳び上がり、フルスピードで駆ける。
「雪村様! 飛ばし過ぎです!」
後ろで留火が叫んだが、雪村は振り返らなかった。
困惑した様子の留火の隣に、結が並走した。
「声をかけるな。主は今、真剣だ」
「そうは言っても、月明かりも無い夜だぞ。いくら喰鳥竜だからって、無茶しすぎだ。それに、捜索に動き出してまったく休まれていないじゃないか」
心配そうに言った留火を少しも見ないで、結は先頭を走る雪村の背をじっと見つめている。
不意にいつもの結の不機嫌そうな表情が崩れた。
哀れむような、哀しげな瞳に変わった。
「責任を、感じてるんだろ。風間様のことや、昔の決断のせいで起こったことに」
「……」
留火は感慨深い表情をして、雪村に視線を移す。
「そうだな。雪村様は本来、優しい人だからな」
「本来ってなんだ。主はずっと優しいぞ。誰に対してもな。――だから、戦争なんかしたくなかったんだろ」
そうだな……と、留火は呟いて、結に視線を移す。
「つーか、お前、なんでその事知ってるんだよ?」
「ワタシはずっと風間様と仕事してたんだぞ。戦時中、風間様と怠輪にも行ったし、倭和にも行った。当然、大将首を仕留めた時もいた。後は色んなとこで盗み聞きすればイイ」
「……結構やるよな。お前も」
「当然だろ。ワタシはお前より強いんだ」
呆れたように行った留火に、結はふんと鼻を鳴らし、胸を張った。
「ちょっと意味が違うけどな」
少し噛み合わない会話を苦笑しつつ、留火は雪村を見据えた。
「あんまり、自分を追い込まなきゃ良いけど」
焦燥に揺れる雪村の瞳は、猛スピードで後ろへ消えていく木々を捉えてはいない。瞳に映してはいるが、頭に入ってはいかない。
「風間、風間――」
消え入りそうに、しかし、強い願いのように、雪村はその名を呟いた。曇天の空を見上げる。
「無事でいてくれよ」
すぐに、俺が見つけるから――。見つけてみせるから。