私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
* * *
風間は、岩壁に囲まれた暗い部屋の壁にもたれかかった。カシャンと、高い音が響く。手首にかけられた手錠が、床とぶつかって出来た音に耳を澄ませて視線を投げた。
視線の先には、鉄の棒が立ち並ぶ。
風間は地下牢にいた。狭く、ベッドもない。隅に剥き出しのままのトイレが備え付けられている以外には何もない。
ランプは、廊下に点々とあるだけで、十分な明かりとはお世辞にも言えない。
暗い地下牢にいるせいか、陶器のような肌が青白く見えた。
風間は手錠に目をやった。苦々しく眉根を寄せる。
手錠は欠けているところもあるが、頑丈でずっしりと重い。
「消者石(しょうしゃせき)か……」
風間は憎らしげに呟いた。
この手錠は鉄に消者石を混ぜて造られた物だった。
消者石とは、透明な岩石の事で、能力者の能力を封印する作用を持っていた。一般的には、それを砕いて粉末にして使う。だが、それだと、一時的な効果しか得られない。
永続的に効果を発揮させるには、消者石を加工し、能力者に身につけさせなければならなかった。
風間は手錠を睨みつけて、ため息を吐き出そうとした。
「……イッ!」
途端に首が痛んだ。立てたシャツの襟から、僅かに包帯が見える。
「……クソ!」
風間は悔しさを吐き出した。
そして、心寂(うらさび)しい瞳で遠くを見た。