私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

「おお~」

 通過した攻撃に釘付けになったヤーセルは、ぞっとして苦笑を洩らし、前に向き直った。その直後、ヤーセルの目は跳んで来る何かを捕らえた。次の瞬間、赤い飛沫が飛び散る。

 ヤーセルに迫った凶刃は、咄嗟に彼を庇ったゼアの腕に突き刺さり、貫いて、なおもヤーセルへと向ったが、ゼアがヤーセルを空中で離して、ヤーセルはそのまま地面に転がるように着地した。

「ゼア! 無事か!?」
「ああ」

 吠えるようにヤーセルは確認し、ゼアは落ち着いて頷いたが、穿牙が引き抜かれた腕からは、大量の血が流れていた。
 ヤーセルは自分の腰布をゼアに向って投げる。

「止血しとけよ」
「ああ」

 ヤーセルはゼアの返答を確認せずに風間に向き直った。
 薄っすらと額に青筋が立った。

「オイオイ、ニイちゃんよ。やってくれたなァ」
「貴方がねだったんじゃないですか。御不満でしたか?」
 風間はにこりと笑んで、揶揄する。
 ヤーセルは頭の中で何かがぶち切れた音を聞いた。
「ああ。そうかい。不満だね。御不満だ! オマエの前戯はヘッタクソでよォ!」
「下品な……」

 風間は呆れ顔を向け、構えを取った。ヤーセルが吠えると同時に、二つの崖が重苦しい音をたてて崩れた。地面をへこませ、草を踏み潰し、岩を砕き、重力の塊が風間に迫り来る。
 風間は喰鳥竜を操り、迂回するように走り出した。
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