私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

「――過去を見たのさ」
 風間は僅かに眉を顰めた。過去を見る能力者など、或屡の周りには居なかったはずだ。

「私の旧知にね、そういう能力者がいるのさ。爛の規凱という小さな町に住んでいて、ここ何十年も連絡すら取り合っていなかったが、彼は私に借りがあってね。君の過去の行いを見てもらったのさ」
半ば脅した形になってしまったがと言って、或屡はくっくと笑った。
「そして、あの時の出来事も、無論利用させてもらったぞ。あの、三条雪村の失態さ」

 主への嘲りに、風間は僅かに柔和な表情を崩した。
 瞳に微かに怒りが滲む。

「アレを指揮したのはお前だと嘯いたのさ。王は君をいたく気に入っていたからな。最初は信じなかったが、倭和から届いた書状を見せたのよ。もちろん、改ざんはしたがな」
「……二条が襲ったのは事実だが、これに第三者が関与している恐れあり――としたのですか?」
 風間の確信的な問いに、或屡は一瞬不快そうな表情をして、にっと笑った。

「そうだ。さすがだな、風間殿」
「ありがとうございます」

 世辞も皮肉もいらない状況だと言うのに――と、風間は自身と或屡に呆れつつ、皮肉を込めて礼を言った。

「まあ、決定打になったのは『風間殿が雲隠れしている』と進言した事だな。君を拉致したのは、このためでもあるのだよ。君がどこかへ行ってしまって、不信感が高まったところで、倭和からの改ざん済みの書状を見せたのさ。まあ、書状は大分遅れて届いたが……」

 或屡は計画に遅れが生じた事を不満に思ったのか、顔を顰めた。
 だが、すぐに下衆な表情になり、嘲るように笑う。

「そして提案をしたわけだ。進軍を持ちかけ、風間を首謀者とし、これを機に危険分子になりえる三条一族を滅ぼしましょう――とな」

 風間は一瞬目を見開く。覚悟はしていた。もしかしたら、そうなるかも知れないと。だからこそ、計画を遂行して来たのだ。
 だが、実際にそうだとはっきりと言われて、風間の心臓は早鐘のように高鳴った。
 或屡は酷薄な笑みを浮かべながら続ける。
< 121 / 148 >

この作品をシェア

pagetop