私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
第十八章・起死回生の光
五日後には、続々と一族の者が集まってきたが、半数以上が功歩と瞑の国境で功歩軍に捕まってしまっていた。
検問を敷いたためでもあるが、三条一族は渡歩であるため、個人の入国証を持たない。入国証がないとなれば、密入国するしかなく、それは容易ではない。また、捕縛される可能性を高めるものでもあった。
そういう理由から、国境を潜り抜けてこれた者は、半数に満たなかった。
百五十余いた一族は、今や三十余しかいない。このまま時が過ぎれば、反逆の一族として捕縛された仲間は処刑され、逃げ延びた一族もまた警察(サッカン)や軍に追われるだろう。
「とにかく、それだけは避けなくちゃ。ゆりちゃんを犠牲にせずに、戯王を説得出来る何かがあれば……」
雪村は薄暗い地下の部屋で、髪を無造作に掻く。
焦燥だけが胸をついては、雪村を焦らせ、思考を停止させる。元々考えるのが得意ではない彼だったが、そんな事は言っていられない。
「……こんな時に、風間が居たら――」
言いかけて口をつぐんだ。目頭が熱くなって、震える唇を噛み締めた。どんなに願っても、どんなに後悔しても、もう時は戻らない。
「俺が、やるんだ。他の誰でもない。俺は、三条家頭首なんだから!」
雪村は、机の前に無造作に並べてあった大量の書簡を手当たり次第に読み漁った。それは、風間や間空が今まで集めてきた或屡の不正をしたためた物や、間者の仕事で得た情報の束だった。
一心不乱に読みふける雪村の背を、ゆりはドアの陰からそっと覗き見る。
憂愁を帯びた目で見て、そのまま声をかけずに後にした。
部屋へ戻るために廊下を行くと、前方から結が歩いてきた。声をかけようと手を上げた結を、ゆりははっとした瞳で見て、踵を返して走り去った。
結は怪訝に首を傾げて、どことなく漠然とした不安感に駆られた。結の不安は、的中していた。
ゆりは、逃げるように地上へ上がった。地下にいるのが辛かった。
自分の決断を、三条の者は誰も責めないだろう。実際、薄々勘付いてるだろう一族の者は、誰も何も言わない。一人の人間の命が関わっている、その当人に、死んでくれと言える非情な者は誰もいなかった。
だが、ゆりはそれが辛かった。
あの中にいる者達にだって、捕まった者の中に大切な人がいるはずなのだ。助かるのなら、是が非でも助けたいだろう。
だが、自分はその人達を助ける力を持っていながら、それを拒否したのだ。そしてそれを、誰も責めない。
ゆりは、胸が張り裂けそうだった。