私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

 * * *

 三人は、スワロらの協力を得て城へ潜入した。べミンの家に数時間匿ってもらい、夜が深まってからスワロ達が酔った振りをして正門で騒ぎ、その隙に聖堂の石垣を登り侵入した。

 ゆりは結が抱えて、ひとっ跳びで石垣を越え、雪村は結界の上に乗り、結果を石垣まで伸ばして越えた。

 塔の見回りは一人だけで、後の夜勤の数人は、塔の一階の管理室に詰め込んでいた。そこを通り過ぎてしまえば、見回りの一人をなんとかすれば事足りる。

 管理室は入り口から奥まったところにあったので、誰かが入り口を見さえしなければ見つかる心配はない。三人は慎重に管理室を通り過ぎ、なるべく足音が反響しないように階段を上った。
 階段を上がりきると、ゆりは息を切ってしまったが、結と雪村はぴんぴんしている。

「大丈夫?」
「うん」
 雪村が声をかけて、ゆりが応えると、結が唇に人差し指を当てた。
「シッ。いるぞ。奥だ」

 言って、回廊の先を指差す。ぴりっとした緊張感が流れ、三人は奥の保管庫を目指した。
すると、ぼんやりとした明かりが足音と共に向ってきた。
 結は、制止するように片手を前へやって、ゆりと雪村は足を止めた。それを目の端で見やって、結は駆け出した。
 回廊の死角へ消えると、男の短い悲鳴が小さく響いた。

「イイぞ」
 結の冷静な声音がして、ゆり達もその先へ向う。廊下を曲がると男がよだれを垂らして気絶していた。

「よし。じゃあ、この鍵に合う保管庫を探そう」
 密かやかに雪村が告げると、ゆりは保管庫を見回した。
「私、分かるよ」
「え?」

「鍵の記憶で見たから。この鍵達が何処に刺さるか分かる」
 ゆりが力強く言うと、結が誇らしげに笑んだ。

「さっすが、ゆんちゃん」
「時間短縮だな。ありがとな」
「ううん。魔王のおかげだから。でも、ありがとう」

 お礼を言って、ゆりは早速鍵を開けに向った。

 一つは、一番端の列。下から三段目。屈むとちょうど目の前に来る位置にあった。ゆりは腰を曲げ、鍵穴に鍵を差し込んだ。
 ゴチャリと、少し重い音がして鍵が開いた。

 扉を開けると、中にはかなりの量の書簡が詰まれていた。
 どれも風間が不在の間に届いた書簡だった。間者をしている一族からの連絡や、諸外国や功歩国内の町村からの書簡など、様々だ。

「どれだろう」
 ゆりは独りごちて、書簡を束で掴んで床に置いて行く。
「この中のどれかに、アンリさんからのメッセージがあると思う」
「分かった。じゃあ、俺達は読んでるから、もう一つの鍵を頼むな。ゆりちゃん」
「うん。分かった」

 雪村と結はカンテラの明かりを翳して次々に書簡の紐を解いて行く。ゆりは、もう一つの保管庫の前に立った。

 それは、保管庫の略中央に位置する場所にあった。
 ゆりは鍵を開けると中を覗いた。
 そこには、風間の保管庫同様幾つもの書簡が保管されていた。
 その中に見覚えのある箱があった。薄紫の、上品そうな細い箱だ。

「これ、あの時リンゼさんが手にしてたやつだ」

 その箱はゆりが風間を心配して塔に訪れていた時、リンゼが手にしていた物だった。これを、彼はアンリに預けていた。

 ゆりは急いで箱を開いた。その中には、薄い巻物が入っている。ゆりはそれを開いた。文字などぼんやりとしか見えない暗闇の中で、目を凝らす。

「二人とも、これ見て!」
 ゆりは低声ながらも、二人を急かした。雪村達はカンテラを持ってゆりの元へ向った。明かりを翳すと、その書簡の内容に二人は目を見開いた。

「これって……風間からの書簡じゃねえか。俺の部屋から無くなったやつだ」

 それは、風間がおそらく拉致されてから初めて届いた書簡だった。王の命により、サキョウから戻らずに任務に出るという内容の。

「なんでこんな物が、リンゼの保管庫に?」

 ゆりから巻物を受け取りながら、結は首を捻る。ゆりはそのままリンゼの保管庫を漁った。全ての書簡を抱え、二人に向き直る。

「とにかく全部調べよう」
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