私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
「はい。全て事実にございます」
「証拠は?」
王に問われて、雪村とゆりは背負っていた風呂敷包みを降ろして広げた。そこには、多くの書簡の束が入っていた。
「これらは全て、証拠にございます」
雪村は落ち着きはらって告げた。王は、その中の一つに手を伸ばした。そして、それを速読すると、次から次に手をつけていった。
その度に、戯王は憤怒した表情へと変わっていく。
提示された証拠の巻物は全て、王都にいる或屡の手先と、或屡との間の計画のやり取り、そして美章国のとある人物との間で交わされた密約であった。
それは、風間監禁の手はずだけではなく、此度の進軍に関しても書かれていた。戯王を上手く丸め込み、戦争を仕掛け、美章国のその者は功歩国を撃退した栄冠を。或屡は、風間や一族に汚名を着せ、俗を討ち取ったという栄誉を得るための計画や密約がしたためてあった。
もちろん風間の印の偽装や、倭和国からの本物の書簡もある。
「売国奴めが! ええい! 忌々しい!」
王は怒り狂って、椅子を蹴倒す。そうして猛りを抑えてから、雪村らに向き直った。
「面を上げよ」
まだ興奮が僅かに残る声音に促され、雪村達は顔を上げた。
その顔をどことなく感心するように見て、
「この証拠をどうやって集めたのだ」
王の声音には怪訝の色が窺えた。それもそのはず。暗躍するのならば、密書などはさっさと燃やすなりして処分するのが通例だからだ。
この王の問いには、リンゼが答えた。
「恐れながら、申し上げます。私は、或屡に与していた者でございます」
「何?」
王はギラッとした瞳でリンゼを睨み付けた。
リンゼは、ごくりと唾を飲み込む。