私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
* * *
ゆりは、セシルが用意してくれた喰鳥竜に跨った。
山で乗せてもらったときは後ろに乗ったのでセシルの背で見えなかったが、目線が上がり前方が開けるというのはやはりそれなりに怖いものであり、同時にテンションが上がるものだった。
高さ的にはちょうど、馬に乗ったときと同じくらいだ。
ゆりが目線を下げた時、ふと昨夜のことが蘇ってきた。
やはり、魔王は雪村が言うように魂の塊なのだろうか。もしそうなのであれば、とり憑かれているようで気分が悪い。
不安な気持ちが、ぽつりと垂れた雫のように広がっていく。
そこに、若干緊張感のある明るい声音が聞こえてきた。
「あのさ、俺、後ろに乗っても良いか?」
声に揺り戻されて、ハッとすると、太もも辺りに雪村の顔があった。
「良いけど――」
言いかけて、ゆりはもう一騎に目線を移す。
喰鳥竜は二匹で、二人乗せて行く。という事は、こちらに雪村が乗れば、もう一匹は必然的に結とセシルになる。
「やっぱダメ」
「え、なんで?」
雪村はあからさまに残念そうな表情をした。
擬音で表せるなら『ガ―ン』が正しいだろう。
「雪村くんがこっち来たら、結とセシルさんが一緒になっちゃうじゃない」
「ああ……。いや、でもさ、あの二人が仲良くなるチャンスかもよ?」
めげずに提案した雪村を一瞥してから、ゆりは結とセシルを見比べた。
結はセシルと目が合わないように俯きかげんで待機し、セシルは結を気にした様子もなく、もう一匹の喰鳥竜にゆりの喰鳥竜にもついている物と同じ荷物を括り付けていた。
「まだ早いと思うけど……」
「早いかな?」
「うん。雪村くんは結かセシルさんと乗って。お願い」
「……わかった。だよな」
噛み締めるように言って、雪村は結の元へ行き、結に何か告げると、セシルの喰鳥竜に騎乗した。
結は不満そうに口をへの字に曲げながらやってきて、ゆりの喰鳥竜へ騎乗する。
「ゆんちゃん、操れるか?」
「喰鳥竜?」
「そうだ」
「やった事ないけど、やってみても良い?」
「良いぞ」
結は軽く頷いて、前にいるセシルと雪村を不平な表情で睨み付けた。
ゆりはなんとなく、選択肢を誤ったような気がした。
自分が、と言うよりは、彼が。
「やっぱり、頼りないなぁ」
「……ゆんちゃん、なんか言ったか?」
「ううん、なんでもない」
ゆりは暢気にセシルと笑い合う雪村を見つめながらぼやいたが、結に怪訝に問われて、慌てて首を振った。