私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
* * *
喰鳥竜の操り方は意外に簡単だった。
それでも、崖登りなどの難しい技術は出来ないだろうが、普通に歩かせる分には、ゆりにもすぐに出来るようになった。
右に行きたければ手綱を右に、左に行きたければ左に、真っ直ぐは一回手綱を振れば止めない限りはそのまま歩いていてくれる。
止めるには、手綱を引けば良い。実に簡単だ。だが、昼も間近という頃だった。
「スピードを速めましょう」
セシルが振り返ってそう言い、喰鳥竜の手綱を思い切り振った。するとその瞬間、喰鳥竜は信じられないスピードで走り出した。
軽く五十キロは出ていただろう。
曲がりくねった街道を走り出した喰鳥竜は、あっという間に見えなくなってしまった。
「ゆんちゃん、行こう」
あんぐりと口を開けているゆりに、結は淡々と言った。後ろから手をまわし、手綱をゆりの手から取って振る。
「ちょ、ちょっと待っ――」
言い終わる前に、喰鳥竜は走り出した。
風景が瞬く間に変わっていく。
風が全身を吹き抜け、喰鳥竜の駆ける振動が伝わり、尻が飛び跳ねそうになる。
太ももに力を入れるが、そうすると前かがみになり、喰鳥竜が前へ前へと駆けるたびに前方へ弾き飛ばされそうになる。スピードが同じだとしても、車に乗るのとは段違いだ。
キャーキャーと騒ぐゆりに構わずに、結はセシルと雪村の喰鳥竜に追いついて並走した。
「あら、やるわね」
「ふん。そっちこそ」
爽やかなライバル同士のようなやり取りがセシルと結の間で交わされたが、今のゆりにとってはどうでも良い。
「イーヤ―! 止めてぇ!」