私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

 * * *

 それから暫くして町が見え始め、喰鳥竜はやっと足を緩めた。
 町は窪んだ地形に作られていて、丘の上からは橙色の屋根が見えていた。
 屋根の色の統一性から見て、この町は全て同じ造りのようだった。

「ゆんちゃん、ちょっとうるさかったぞ」
 結が体をぐんっと斜めに傾けて、ゆりを後ろから覗き込んだ。
 ゆりは結に一瞥くれて、ぼそっと呟いた。
「……もう、なんとでも言って」

(絶対にもう前には乗らない!)
 疲れ果てた顔つきで、ゆりは固くそう誓った。
 そこに、雪村の乗った喰鳥竜が並んだ。

「大丈夫? 谷中さん」
「ありがとう、雪村くん。まあ、なんとかね」
「ごめんね、ゆり。トバさないと昼までに間に合いそうになかったから」
「いえ。全然良いですけど、お昼に何かあるんですか? セシルさん」
「ええ。お昼にちょうど業者が来るのよ」
「業者?」

「隊商(キャラバン)よ。各地を回って色んな物を売買してるの。通常は宝石は町の宝石商に売るけど、ドラゴンの皮や牙や角なんかは、隊商に売るのよ」
「へえ……」
「大抵午前中に来て、お昼を済ませたら行ってしまうのよね」
「ああ、だから急いだんですね」
「ええ。そう言うこと」
「そういえばさ」
 会話を遮るように雪村が声を上げた。ふと、思いついた事があったのだ。

「セシルっていつも一人で町に売りに来てんのか?」
「いいえ。いつもはお父さんや、サイモンと一緒よ」
「サイモンって、あの背の高い人?」
 尋ねたのはゆりで、答えたのは雪村だった。

「そう。昨日山で俺を乗せてくれた人だよ。サイモンは炎の能力者なんだぜ」
 すごい! とゆりが密かに驚いたところで、セシルは首だけで振り返り、話を戻した。

「それで、どうしてそんなこと訊くの?」
「ああ、うん。一人だったら危ないなって思っただけ。そういや、帰りは一人か?」
「そうね、そうなるわね」
「大丈夫か?」

 心配そうな顔をした雪村に、セシルは意外そうに目を丸くして微笑んだ。
「あら、ありがとう。でも大丈夫よ。帰りは得意な山の中だもの。それにしても、雪村って優しいのね」
「そうか?」
「そうよ」
 気取って言って、セシルは前に向き直った。
「ふん……!」
 首筋に、結の憎々し気な鼻息がかかって、ゆりは思わず苦笑した。
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