私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

 * * *

「え? 今日ここに泊まるんですか?」
 まだ昼なのに――と、ゆりが驚いた声を上げると、前を歩いていたセシルが振り返った。
「そうよ」

 今は町にいる間にドラゴンを預かってくれる預屋(せきや)という店へ向って、再び町の外側へと歩いている最中だった。
 預屋は、ゆり達が入ってきた入り口とは反対方向にあるのだ。

「どうしてですか? あっ、次の町まで遠いとか?」
「次の目的地はサイハンっていう村よ。その前にゴゴバっていう村を通過して行くけど。その次がユルーフになるわ。今から行くとゴゴバにつくんだとしても、日暮れぎりぎりってとこかしら」
「もしかして、盗賊が出るからですか? それとも、日が暮れちゃうと町に入れないとか?」

 不安げにゆりが窺い見ると、セシルはくすっと笑った。
「盗賊はサイハンからユルーフへの道程で出るって言われてるから、まだ心配しなくても大丈夫よ」
「そ、そうですか」

 ゆりはいったん安堵したが、ふと気がついた。
(でもやっぱり出るんだ)

「単純にね、ゴゴバには宿舎がないのよ」
「あっ、そうなんですね」
「それにね、城塞都市でもないからそんな事もないんだけど、夜に町や村に入る人はあんまりいないの」

「どうして?」
「面倒なのよね。夜は憲兵が町村の入り口で検問しくから。まあ、村の場合は自警団である場合が多いんだけどね」
「へえ……」

「それに、日が暮れてからの旅は危険なの。盗賊や山賊にも遭うかもしれないけど、ドラゴンは夜行性の方が多いし、夜行性の方が凶暴だから」
「それは……泊まって行った方が良いですね」
 引きつった表情を浮かべたゆりに、セシルはおどけて言った。
「でしょ」
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