私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
* * *
玄関から広がる廊下は真っ直ぐに伸び、十メートル程先で突き当たりにぶつかっている。丁字路になっているところはとても暗く見えたが、そこに至るまでの廊下は玄関の真上にあるステンドグラスから日が入り、春を思わせるほど明るかった。
ゆりは感嘆の息を漏らしながら歩き出したが、不意に声をかけられて足を止めた。
「谷中さん。ちょっとオヤジに報告しに行くけど、どうする?」
「え?」
怪訝に雪村を見上げると、彼は少し照れたように唇をきゅっと結ぶ。
「えっと、帰る方法知らないか訊いてみようと思ってるんだけど」
「本当!? 行く!」
喜び勇んだゆりに雪村は嬉しそうに笑み返した。
「良かったな。ゆんちゃん」
「ありがとう。結!」
うむと大きく頷いた結だったが、すぐに首を傾げた。
「あれ? 良かったのか?」
しきりに首を捻る結に苦笑を返して、ゆりは胸を弾ませながら廊下を進んだ。