私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

 * * *

 ゆりと結が二階の廊下を歩いていると、後ろから声がかかった。
「谷中さん! 結!」
 二人が振り返ると、雪村が薄暗い廊下を走ってきていた。

「はやかったんですね。主」
 意外そうな顔をした結に、雪村はうんざりした表情を向けた。
「また、説教始まりそうだったから逃げてきた。――谷中さん、ごめんな」
「え?」
「なんか、帰る方法とかダメっぽい」
「そっか……」
 残念がったゆりに、雪村は慌てて手を振った。

「あ、でもさ! 絶対帰る方法はあるって!」
「うん。ありがとう」
 気遣いが嬉しくてゆりはにこりと笑んだ。そこに、結が険のある、拗ねたような声を投げた。

「イイのか。風間さまに怒られるぞ」
「うっ……。まあ、それはそれとして置いといて」
 雪村は手で物を置くジェスチャーをして、ゆりに向き直る。
「じゃあ、行こうか」
「あ、うん」
 ゆりが頷くのを合図に、三人は廊下を再び歩き出した。
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