私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
「ワタシはあの人を尊敬してるんだ」
「え?」
嫌いなのに? と、ゆりは小さく首を捻った。
「風間さまって、忌子(いみご)って言われてたんだ」
「忌子?」
「三条では、忌子って能力を持たずに生まれてきた者を指すんだ。でも、能力を持たずに生まれる者って三条ではいないから、『弱い者』を指すんだ。風間さまは子供の頃、結界能力が極端に弱かったって、三条では有名なんだぞ」
「今は違うの?」
「うん。結界能力を強化した上に、後天的に重力の能力まで身につけたからな」
「それって、やっぱりすごいことなんだよね?」
「当たり前だ。多分、すごい努力したんだと思う。やっぱり、オヤジ様の息子だからな。そういう重圧とか認められたいとか、そういうのもあったと思うぞ。実力至上主義の三条では、強い事が全てだからな」
ゆりは一瞬頭が真っ白になった。今、結は、風間が間空の息子だと言ったのか――? では、雪村と風間は義兄弟ということになる。
意外な事実に呆然とした。
「もちろん一族の能力で、だけどな」
その一言は明るく放たれた言葉だったが、結の心情を思うと胸が締め付けられる思いがした。結の能力は一族伝来のものではない。
そして、その能力は世間一般では褒められるものではないという。
一族の能力だけを重視する環境にあって、その能力を持たない者はどのような心境だったのだろう。おそらく、大きな孤独であったに違いない。
そう想ったら、ゆりは結の手を固く握り締めていた。
「結。私はどんな事があっても、結の味方だからね。友達だからね」
真剣な瞳で結を見つめると、結の瞳が驚きで僅かに大きく開き、次の瞬間ふと柔らかく細まった。
「やっぱり、ゆんちゃんと主は同じだなぁ……」
「え?」
「主はワタシの事、下に見たりしないんだ。友達だって言ってくれる」
「そっか。だから――」
(だから、好きなんだ)
すとんと得心する気持ちが入ってきて、ゆりは急に泣きたくなった。
ざわつく想いを呑み込んで、頬を持ち上げる。