私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
第八章・食客
「風間さん」
自身を呼ぶ声に振り返ると、そこにはリンゼがいた。
城の暗い廊下に、ぼんやりとランプが灯り、笑んでいるリンゼの瞳が不気味に光ったように見えた。
「どうしました?」
「先程は窺い損ねてしまったのですが、この前の任務の事なんですけど」
「ああ。はい」
「確か、同盟に関しての密談――という話でしたけど」
如何でした? というように、リンゼは窺うような視線を風間へ向ける。
「そうですね。まあ、決まりはしませんでしたが、まあまあといったところでしょうか」
「……そうですか。では、その旨を報告させていただきますね」
「はい。後で報告書を作成しておきます」
「よろしくお願いします。ちなみに、山の件はどうなりました?」
リンゼが尋ねると、風間は僅かに苦笑を浮かべた。
「それが、サキョウの土木関係の者に任せたいと仰いましてね。会合に赴く事になりました」
「ああ。そうですか……」
リンゼは同情するように眉を八の字に曲げたが、ハッとした表情を浮かべた。
「いつ発たれるのですか?」
「明日には」
「それ、一週間後に出来ませんか?」
「或屡様に伝書を送ってみなければ分かりませんが……。まあ、おそらくは可能だと思いますが――」
何故そんな事を訊くのかと、風間が不審に思うと、リンゼは朗報を得たように、パンッと手を叩いた。
「では、是非そうして頂きたい。実は一週間後に王がサキョウへ行啓に行かれるのですよ。僕が伝書でお報せしても良いのですが、ご自身でお伝えした方が良いでしょう? 王もその方が喜ばれると思うなぁ。何せ、風間さんは王の御眼鏡に適った人だから!」
嬉々として言うリンゼに、風間は内心で苦虫を潰しながら愛想笑いを返した。
「いえ。恐れ多いです。そんな事はございませんよ。――では、御提案に乗らせて頂きます。そういう事なら、或屡様にも快諾していただけるでしょう」
「では、戯王には僕から連絡を入れておきますね」
「了承致しました。ありがとうございます。では、私はこれで」
風間は軽く頭を下げて踵を返した。
その瞳には不快な感情が色濃く映し出されていたが、その風間を見送るリンゼの瞳もまた、怪しく光っていた。