私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

 * * *

 ――九年前の事だ。
 功歩が大戦に参戦するため、美章を襲う数ヶ月前の事だった。
 間空は、雪村と風間を自室へと呼び寄せた。

 間空の部屋は岐附、爛、千葉では一般的な畳が敷かれている部屋だった。
 間空は、爛に居たおりに畳をいたく気に入った。なのでリフォームすることを許可された部屋に畳を敷くのが彼の拘りであった。

 い草の香る部屋に通された二人の少年は、どことなく緊張した面持ちであった。
 雪村は八歳。風間は十四歳の頃だった。

「良いか。お前達二人に、これから話すことは三条家の歴史だ。この事は三条でも知る者は限られている。いわば、三条家先祖の本懐だ」

 強い瞳で力強く言い放った間空に、風間は驚きながらも真剣な表情を返したが、雪村は驚いた後に、どことなく面倒な表情をしたように間空には思えた。

 だが、雪村は生来、明るく社交的な反面、難しく、堅苦しい話が苦手だったことを思い出し、致し方がないかと受け流した。

「遥か昔、六百五十年前のおり、今は倭和国のある地に条(ジョウ)国という国があったのだ。三条家はその条国の王族であった」
「え?」
「マジで?」
 二人は面食らって呟いたが、風間が表情を戻してすっと手を上げる。

「親父様。歴史の学問書や、竜王書にはそのような国は載っておりませんでしたが」
 生真面目な顔で訝しがった風間の横で、雪村は「へ~」と暢気に感心していた。

「そうだ。歴史には載っておらん。竜王書もその辺の巻は紛失してしまっている」
「何かあったのですね?」
「ああ。察しが良いな、風間」

 褒められた風間は、嬉しそうにあどけない笑みを見せた。
 ただ、その姿はどことなく申し訳なさそうでもあった。
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