私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
「聖女は器としては適応したが、魔王の中の能力を操る事は困難であったようだ。なので、彼らは聖女がどうにかして能力を扱えるようにならないか苦心したらしい。その中で、聖女と良い仲になった男がいた。――それが我らが祖先、紅説王だ。だが、ある日聖女は死んでしまい、哀しんだ紅説は彼女を生き返らせる方法を模索し始め、ある方法を思いつくが、結果は失敗したと言えような」
伏目がちに言って、間空は一息ついた。
「紅説の計画で、結果的に聖女の中の第三の魔王が、魔竜の中の魔王と繋がってしまったのだ。皮肉にも、聖女を蘇らせるための計画が、魔竜を操るために効を奏することになってしまった」
「じゃあ、ハッピーエンドじゃん」
楽観的な声音を出した雪村を、間空は憂鬱に見据えた。
「それが、そうでもないんだよ」
怪訝な表情をした雪村と風間に一瞥くれて、間空は一息ついて続けた。
「紅説はあくまでも聖女を生き返らせる事を望んだ。だが、それは赦されなかった」
「なんで?」
「危険性があったからだ。――魔竜が操れなくなるというな」
間空の瞳に僅かに憎しみの炎が灯った。
間空は、懐から色あせ、古びた朱色の巻物を取り出して畳の上に置いた。
「封魔書という。この書物には、大体正確な事が書かれている。だが、紅説の最後についてはでたらめそのものだ。この著者は裏切り者さ」
苦々しく睨みつけられた巻物を風間は手にとって読み始めた。
雪村はちらりと覗き見たが、文字がびっしりと書かれているのを見てすぐに「ゲッ!」と、嫌そうな顔をして視線を外した。
読み終えた風間は几帳面に巻物を閉じて畳に置いた。
「この巻物にあった『男』という表記が紅説ですよね。男はアジダハーカを目覚めさせるかも知れないという危険性から反対した者達に怒りを覚えて殺そうとし、逆に殺されたようですが、どう違うのでしょうか?」
冷徹に出された質問に、間空もまた冷静に答えた。