私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
「まず、アジダハーカを目覚めさせる危険性から反対されたというのは違う。奴らは、魔竜を操れなくなることが嫌だったのさ。せっかく制圧した、いや手にした力だからな」
「なるほど。力を手放したくなかったんですね」
「そういうことだ。だから奴らは紅説、並びに魔竜を倒す事に一身に身を投じてきた四人、アイシャ、燗海、ヒナタ、陽空を魔王を創るさいに数多の命を奪った殺戮者として処刑したのさ」
「条国の内乱ですか?」
「いや。ことは内々ではすまないことだぞ。風間」
試すように強い瞳を向けられた風間は、こくんと頷いた。
「世界に魔竜が蔓延っていたのでしたら、これは条国だけではなく、世界の問題だったのですね」
「その通りだ」
間空は満足気に大きく頷く。
「魔王計画は、全世界承認で行われていたことだ。それが証拠に、ヒナタや陽空など、処刑された四人はそれぞれ別の国から代表として条国へやってきたのだ。条国で研究が行われたのは、研究に必要な能力を持つのが王族である三条だったからだ」
「では、条国が歴史から消されてしまったのは……」
風間は察したように目を僅かに見開き、間空は深く頷いた。
「そうだ。紅説を捉えて殺すため、各国は兵を挙げ、条国を滅ぼしたのだ。もちろん、民も、王侯貴族も皆殺しだ」
「その中で命からがら生き残ったのが、私達ですか?」
風間は真剣な眼差しで間空を見据え、また間空も真剣に頷いた。
「そうだ」
間空の瞳に、呆気に取られたように口をあんぐりと開ける雪村が映ったが、呆れるより笑うよりも前に、風間が寂しげに瞳を伏せたのが見えて、間空は風間に視線を移した。
「では、我々が渡歩になったのも、どこの国にも受け入れてもらえないのも、世界から疎まれたからなのですね。――魔竜なんかのために」
その声音は悔しさがにじみ出ていて、間空は胸が詰まる思いがした。
「しかも、魔竜から世界を救ったというのに……我々の先祖は、紅説王は、その世界に裏切られたのですね。数多くの犠牲を出したのだとしても、それは世界の王が承諾していたのでしょう? なのに、押し付けられて……殺されてしまうなんて酷いです。ましてや条国の民に罪はなかったに違いありません」
風間の話を聞いて、やっと理解したのだろうか。雪村ははっとした顔をして、それから哀しげに眉を八の字に曲げた。
「だがな、風間。魔竜は条国王族の血筋以外に操る事は出来んのさ」