私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
「え?」
「魔竜は呪符によって動く。呪術師以外に操ることはかなわん。各国の王に逸し報いることは出来たわけだ。ほんの、微々たるものだが」
「では、その魔竜はどこに? もう死んだのですか?」
「いや。まだ生きている。三条には、二条という分派が存在するんだが」
「二条?」
怪訝な表情をした風間の横で、雪村が大きく首を捻った。
「条国には、三条と二条という王族がいたのだ。どちらも能力に差はなかったが、当時、紅説がいたことによって、王位は三条が継いだ」
「へえ」
雪村は心ここにあらずといったように頷いた。
興味がなかったか、未だに理解出来ていないかは分からなかったが、間空は内心で呆れながらも話の腰を折らぬように話を続けた。
「王宮が襲われた折、生き残った我々を除いて、三条一族は死罪になったが、二条家だけは死罪を免れ、牢屋へ幽閉されていた。伝え聞いた話によると、二条家頭首は紅説王をひどく憎んでいたらしいから、もしかしたら諸外国と内通していたのかも知れん」
「マジかよ。ひどいな」
雪村は驚き、怒りを覚えたようで僅かに頬を紅潮させる。
間空は雪村が少しでも一族に興味を持ったことを嬉しく思ったが、それは出さずにつとめて冷静に振舞った。
「ああ。だが、それは推測でしかないがな。そして、王家を葬り去ったあと、呪術師でなければ操れないと知った各国の王は、二条に、ニジョウと名を変え、魔竜を見張るように押し付けたのさ。それを今でも忠実に守っているのがニジョウ一族というわけさ」
「ふ~ん。でもさ。呪術師なら操れるって知ってんなら、俺達って各国に狙われたりするんじゃないの? それにニジョウも、能力は使えるわけだろ。何で当時のやつらは二条に操らせなかったんだ?」
「――ッ! ゲホッ! ゴホ!」
雪村が珍しく的を射ることを言ったので、間空は驚いてむせてしまった。
「――んんっ! まあ、その通りだな」
呼吸を整えて咳払いをしてから、間空は雪村を見据えた。