私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

 * * *

 話を終えた間空の瞳が陽光に光った気がして、ゆりはドキッとした。
 六百五十年も戦い続けた孤独とは、どのようなものなのだろうか。
 本当は間空は泣きたかったのかも知れないと、ゆりは思った。

「じゃあ、雪村くんや風間さんはその本懐を遂げようとして魔王を呼び出そうと思ったんですか?」
 ゆりの問いに、間空は首を振った。

「結果的にはそうだと言えるが、元は違うな」
 訝しがったゆりに、間空はふと笑みかける。

「我々の望むものと、六百五十年前の先祖の本懐はいつも一致していた。世界から追われるように旅をしなければならない我々にとって、安住の地は焦がれるほど手に入れたいものだ。私の父も母も祖父母もそれを望んでいたし、この事を知らない三条家の者も一所に留まりたいと言う者が多い。だが、今回の事の発端はそれではないのだ」
「どういうことですか?」

 間空は迷うように押し黙った。だが、払拭するように小さく首を振り、しゃがれた声が冷静に告げた。
< 77 / 148 >

この作品をシェア

pagetop