何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
その日の授業が終わり、天音は城を出て、城下町を一人トボトボと歩いていた。

「見いつけた。」

グイ

そんな天音の腕を誰かがひっぱった。

「わ!」

天音は突然腕をひっぱられた事で、足がもつれ転びそうになった。

「おっとと。」

天音が振り返ると、そこには10才くらいの女の子が立っていた。

「どうしたの?迷子?」

もちろんその少女とは初対面の天音は、優しく少女に話しかけた。腕を引っ張ってきたという事は、きっと何か意味があるのだと考えていた。

「出て行けば?」
「え…?」
「怖いんでしょ?自分が誰か知るのか。」
「へ?あなた、何言って…。」

しかし、突然わけの分からない事を口走る少女に、天音は戸惑う事しか出来ない。

「ここを出て行きなよ。天音。」

今度は言葉だけでなく、少女の冷たい視線が、天音に突き刺さる。何故この少女の瞳はこんなにも冷え切ってしまっているのだろう。
そして彼女は、確かに天音の名前を呼んだ。
今日会ったばかりの彼女が何故?天音の頭には、そんな疑問が浮かび上がる。

それはまるでデジャヴ…

「そんな子供の戯言を真にうけてどうするの?」

戸惑う天音の前から、いつものように冷静なあの声が聞こえた。

「かずさ…。」

天音はこの時ばかりは、何故かかずさを見つけて、少しホッとした。
正直一人では、この娘にどう対処していいのかわからない。

「チッ。」

しかし少女は、かずさの顔を見たとたん、悔しそうに舌打ちをして、子供とは思えない顔でかずさを睨んだ。

「かずさ、この子知ってるの?」
「…まあ。」

明らかにかずさを見たとたん、態度を変えた彼女の様子を見たところ、少女とかずさは顔見知りのようだ。
しかし、かずさから返ってきたのは、何ともはぎれの悪い返事だけだった。

「余計な事するなって言ってるでしょ!」

少女は、子供とは思えないほどの鬼の形相でかずさを睨みつけ、攻撃的な言葉をかずさに向ける。
一体、何が彼女をそうさせているのだろうか…。それは天音には全く想像ができない。
この町にいるこの子と同じくらいの年代の子供達は、いつも笑い声をあげながら、楽しそうに遊んでいる姿しかみた事がないのに…。

「あなたの出る幕じゃないわ。」

かずさは、その少女の横に立ち、そうつぶやいた。
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