何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「…見ないで。」
少女はかずさの方を一切見る事なく、冷たく言い放つ。
「…。」
かずさもまた、その少女の方を見ようとはしない。
「あなたが見てるのは絶望だけでしょ?かずさ。」
「絶望…ね…。」
「でも、未来で笑うのは、あなたじゃないわ。」
「今は何もできないでしょ。帰りなさい。」
かずさは、そんな興奮状態の少女とは正反対に、冷たく冷静な声で少女にそう言って、何とか彼女を帰らそうと試みる。
「チッ。」
少女は二度目の舌打ちをし、突然走り去って行った。
「え…。かずさ、あの子一人で大丈夫?」
あっけにとられた天音は、そんな二人のやり取りを、ただ唖然と見ている事しかできなかった。
しかし天音は、全く子供らしくない、攻撃的な目をしたあの子が少し心配になった。
「…あの子には、関わらない方がいいわ。」
「え?」
かずさは、いつもと変わらない冷静な低い声で、天音に忠告した。
「じゃあ。」
かずさはそう言って、天音に背を向け歩き出した。
「え?うん。じゃあね。」
かずさの足が向かうのは、やはり城の方向。
かずさの帰る場所は、やっぱりあの城なのだろうか…。
天音はそんな事をボンヤリと考えながら、城とは反対の方向へと歩き出した。