何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「天音ー!」
華子が天音に呼びかけるが、天音からの返事はない。
「ほっときなさいよ。」
星羅は相変わらずそっけない態度で、返すばかりだ。
「お―い。何かあった?」
天音は部屋に帰ってから、ずっと布団に包まっていて、一向に出てこようとはしない。
そんな天音の様子に、華子が心配するのも無理はない。
「もう村に…帰りたい…。」
天音がか細い声でつぶやいた。
なぜだか、天音は急に不安に駆られ、そんな風に思い始めていた。
(もう、何も知りたくない。)
「言ったはずよ。帰りたい奴は帰ればいい。」
しかし、天音は誰にも聞かれないほどの小さな声でつぶやいたはずだったが、星羅の耳には、しっかり届いていたようだ。
「もー星羅、相変わらず厳しい。きっと、何かあったんだよ。」
そんな厳しい星羅を、華子がいつものようになだめる。
しかし天音は、またダンマリに戻ってしまい、反応はなくなってしまった。
「あなたは、何に期待して来たのか知らないけど、私はここへ来るしか選択はなかった。」
そんな天音に向かって、星羅は厳しい声でそう言い放った。
やはり星羅の妃になるという決意は、並大抵のものではないようだ。
天音のその一言が、星羅の怒りを買うのは当たり前だ。
―――― 期待…。そんなものは、もうここにはナイ。
「でも、自分の選んだ道に後悔はないわ。」
バタン!
そう言って星羅は部屋を出た。