何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
リーンゴーン

その時、もうすぐ夕食だと知らせる鐘が鳴る。

「天音…先…行ってるね?」

華子はそれでも、やっぱり優しく話しかけるが、天音からの答えはない。

「私は嫌だから。」

夕日に照らされた部屋に、いつもより少し低い華子の声が響いた。

「…。」
「私は、最後は天音と星羅と妃の座を争いたいから。」


パタン


そして静かに扉は閉まった。

「…。」

チッチッチ

二人が出て行き、静まり返った部屋の中で、天音は未だ布団に包まったまま。

(私…何のためにここにいるんだっけ?)

私は、自分の母親のことを知るために、ここに来たんだっけ?
私は、石を探すためにここへ来たの?

「…。」

その時ふと天音は布団から出て立ち上がり、窓の方へと歩いた。
そして窓を開けた。

「夕日だ…。」

『泣くな、夕日が見ておる。』

そこには、まぶしいほどに真っ赤に燃える夕日があった。

「…。」

『待っててすぐに戻るから!』
『私…。この村が大好きだよ!!』

「じいちゃん…。」

『不満をかかえている人々はたくさんいる。反乱は起こる。よいか、妃たるもの全てを見なければならぬ。国を見なければならぬぞ。』


(本当に……何も知らない方がよかった?)



『飾りだけの妃はこの国にはいらぬ』



「…私は…。」



――――この国を知るためにここへ来た…?





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