何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
食事の後、天音はいつもの池に足を運んだ。
そしていつものように彼の姿を見つけ、天音は少しホッとしたような安心した気持ちになった。
「え…天音…?」
しかし、京司は天音の姿を見つけ、まるで幽霊を見たかのように、何度も目をしばたかせた。
「ん?どうしたの?そんなに驚いて。」
天音はそんな京司を見て、キョトンとした表情を見せ、首を傾げた。
天音は、あの山で石の話を聞いたとたん、拒絶するように逃げ帰ってしまったため、京司はまさか今日の今日で彼女がここへ来るなんて、思ってもみなかった。
「…もう来ない気がした。」
「え?私が?」
「ああ。」
京司のどこか心配そうな瞳が、天音を見つめた。
「…私ね、村に帰ろうと思った。」
「え…。」
京司は、天音のその言葉に言葉を失った。しかし、その瞳はなおも天音を見つめ続ける。
「うっそー!!」
「へ…。」
天音はわざとおどけてそう言ってみせた。彼の心配そうに見つめるその瞳を何とかしたくてて…。
しかし、京司は豆鉄砲を食ったような顔をして、天音を見て固まっている。
「だまされた?でも半分は本当なんだけどね。」
「なんだそれ!」
京司は少しふてくされながらも、自然と笑みがこぼれ落ちる事を止められない。
それは安堵の彼の心の現れ。
「今日は急に帰ってごめんね。この頃さ何か分けわかんない話ばっかり聞いちゃって、なんか混乱しちゃって…。」
天音は少し恥ずかしそうに、俯いて見せた。
天音自身もわかっていた、あんなに取り乱した事なんて、今までなかった。
何がそうさせていたのかは、もうわかっているが…。
「でも、自分がやるべき事は、忘れてちゃいけないよね。」
しかし、天音はバツの悪そうな顔を上げて、京司を見た。
「…天音はどうして妃になりたいんだ?」
天音がやるべき事、それはきっと妃になる事。京司はそう察し、天音にその真意を問う。
なぜ彼女は、妃になるためにここへ来たのか…。
「昔々ある所に、村が大好きなただの田舎者の女の子がいました。もちろん一緒に住んでいたじいちゃんの事も大好き。でも家は貧乏。村も貧しい村だった。」
(金…か…。)
京司が少し表情を曇らせて、視線を落とした。
「感謝しているの。」
「え…。」
しかしその言葉に京司は顔を上げて、隣にいた天音方をもう一度見た。
「私がここに来る前に、じいちゃん体調悪くして。だからその時は、とっさにじいちゃんに楽させてあげなきゃ!って思ったの。」
それはお金という一言で片づけられない、天音の純粋な思いだった。
「ただ村に居ただけじゃ、じいちゃんや、村のみんなにも何も恩返ししてあげられない、なぜかそう思ったんだ。」
「…恩返し?」
「だって、どこの誰かもわからない私を、じいちゃんや村のみんなが育ててくれたんだから。」
「え…。」
その言葉の意味を理解できない京司は、じっと天音の方を見ていた。
「私ね、村の入り口に捨てられてたの…。そんな私を拾って育ててくれたのが、じいちゃんだった。村のみんなも、私が赤ん坊の時から知っていて、すごく良くしてくれた。」
天音は包み隠す事無く、自分の生い立ちを京司に話した。
京司になら、自分の事を全部話せると思ったから。
「私の村も、城下町までとはいかないけど、沢山の人に知ってもらえたらいいな。私の村だって美味しい野菜や、美味しい牛乳があるんだよ!」
天音が目を輝やかせて、京司に笑いかけた。
「やっぱり天音は幸せ者だな。」
京司はそんな天音を、やっぱり直視はできなかった。
彼女の純粋な思いは、やはり京司にはまぶしすぎた。
「うん、そうだね。」
そんな純粋な思いを抱え妃になりたいと言えるなんて、彼女はやっぱり、自分とは違う世界にいる人間なのかもしれないと思い、京司はまた俯いて、池にいる鯉を見つめていた。
「…でもこの城に来て少しわかった。」
天音がまたポツリとつぶやいた。
「え…?」
「この国の事。」
天音の顔からは笑みが消えて、どこか遠くを見つめていた。
そんな天音を、京司が真剣な眼差しで、見つめていた。
「妃になろうと思わなければ、私は何も知らないままだったのかな…。」
――――ほらやっぱり彼女はちがう。
「天音はこの国を…どう思う?」
京司の口からは、そんな言葉が自然とこぼれていた。
(なぜそんな事を天音に聞くんだ?聞いてどうする。)
「…まだよくわかんないけど、私は知らなきゃいけない気がする。」
天音は京司の問いに、やっぱり真っ直ぐ自分の思いを伝えた。
「…。」
「士導長様が言ってたの…。妃たるもの国を見なければいけないって。」
……え…?
「飾りだけの妃はいらないって。」
京司は、はじかれたように目を大きく見開いた。
「…私の考えは甘かったんだな…って。」
…ちがう…。
「…。」
京司は何も言えなくなって、また俯いた。
――――飾りだけなのは俺なんだ。飾りだけの天使教は俺なんだ。
そしていつものように彼の姿を見つけ、天音は少しホッとしたような安心した気持ちになった。
「え…天音…?」
しかし、京司は天音の姿を見つけ、まるで幽霊を見たかのように、何度も目をしばたかせた。
「ん?どうしたの?そんなに驚いて。」
天音はそんな京司を見て、キョトンとした表情を見せ、首を傾げた。
天音は、あの山で石の話を聞いたとたん、拒絶するように逃げ帰ってしまったため、京司はまさか今日の今日で彼女がここへ来るなんて、思ってもみなかった。
「…もう来ない気がした。」
「え?私が?」
「ああ。」
京司のどこか心配そうな瞳が、天音を見つめた。
「…私ね、村に帰ろうと思った。」
「え…。」
京司は、天音のその言葉に言葉を失った。しかし、その瞳はなおも天音を見つめ続ける。
「うっそー!!」
「へ…。」
天音はわざとおどけてそう言ってみせた。彼の心配そうに見つめるその瞳を何とかしたくてて…。
しかし、京司は豆鉄砲を食ったような顔をして、天音を見て固まっている。
「だまされた?でも半分は本当なんだけどね。」
「なんだそれ!」
京司は少しふてくされながらも、自然と笑みがこぼれ落ちる事を止められない。
それは安堵の彼の心の現れ。
「今日は急に帰ってごめんね。この頃さ何か分けわかんない話ばっかり聞いちゃって、なんか混乱しちゃって…。」
天音は少し恥ずかしそうに、俯いて見せた。
天音自身もわかっていた、あんなに取り乱した事なんて、今までなかった。
何がそうさせていたのかは、もうわかっているが…。
「でも、自分がやるべき事は、忘れてちゃいけないよね。」
しかし、天音はバツの悪そうな顔を上げて、京司を見た。
「…天音はどうして妃になりたいんだ?」
天音がやるべき事、それはきっと妃になる事。京司はそう察し、天音にその真意を問う。
なぜ彼女は、妃になるためにここへ来たのか…。
「昔々ある所に、村が大好きなただの田舎者の女の子がいました。もちろん一緒に住んでいたじいちゃんの事も大好き。でも家は貧乏。村も貧しい村だった。」
(金…か…。)
京司が少し表情を曇らせて、視線を落とした。
「感謝しているの。」
「え…。」
しかしその言葉に京司は顔を上げて、隣にいた天音方をもう一度見た。
「私がここに来る前に、じいちゃん体調悪くして。だからその時は、とっさにじいちゃんに楽させてあげなきゃ!って思ったの。」
それはお金という一言で片づけられない、天音の純粋な思いだった。
「ただ村に居ただけじゃ、じいちゃんや、村のみんなにも何も恩返ししてあげられない、なぜかそう思ったんだ。」
「…恩返し?」
「だって、どこの誰かもわからない私を、じいちゃんや村のみんなが育ててくれたんだから。」
「え…。」
その言葉の意味を理解できない京司は、じっと天音の方を見ていた。
「私ね、村の入り口に捨てられてたの…。そんな私を拾って育ててくれたのが、じいちゃんだった。村のみんなも、私が赤ん坊の時から知っていて、すごく良くしてくれた。」
天音は包み隠す事無く、自分の生い立ちを京司に話した。
京司になら、自分の事を全部話せると思ったから。
「私の村も、城下町までとはいかないけど、沢山の人に知ってもらえたらいいな。私の村だって美味しい野菜や、美味しい牛乳があるんだよ!」
天音が目を輝やかせて、京司に笑いかけた。
「やっぱり天音は幸せ者だな。」
京司はそんな天音を、やっぱり直視はできなかった。
彼女の純粋な思いは、やはり京司にはまぶしすぎた。
「うん、そうだね。」
そんな純粋な思いを抱え妃になりたいと言えるなんて、彼女はやっぱり、自分とは違う世界にいる人間なのかもしれないと思い、京司はまた俯いて、池にいる鯉を見つめていた。
「…でもこの城に来て少しわかった。」
天音がまたポツリとつぶやいた。
「え…?」
「この国の事。」
天音の顔からは笑みが消えて、どこか遠くを見つめていた。
そんな天音を、京司が真剣な眼差しで、見つめていた。
「妃になろうと思わなければ、私は何も知らないままだったのかな…。」
――――ほらやっぱり彼女はちがう。
「天音はこの国を…どう思う?」
京司の口からは、そんな言葉が自然とこぼれていた。
(なぜそんな事を天音に聞くんだ?聞いてどうする。)
「…まだよくわかんないけど、私は知らなきゃいけない気がする。」
天音は京司の問いに、やっぱり真っ直ぐ自分の思いを伝えた。
「…。」
「士導長様が言ってたの…。妃たるもの国を見なければいけないって。」
……え…?
「飾りだけの妃はいらないって。」
京司は、はじかれたように目を大きく見開いた。
「…私の考えは甘かったんだな…って。」
…ちがう…。
「…。」
京司は何も言えなくなって、また俯いた。
――――飾りだけなのは俺なんだ。飾りだけの天使教は俺なんだ。