何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
天音は京司と別れた後、いつものルーティンで、誰も足を踏み入れない暗闇の中へと一人進んでいく。
そして、その重い扉は、今日も天音が手をかざしただけで、開いた。

「こんばんわ。」
「天音!」

青は天音が来てくれるのを、心待ちにしていたように、嬉しそうな声を出した。

「座って。」
「うん。」

青はベットの横にある椅子に座るように、促す。

「今日、花火…あがってたね。」

先に話を切り出したのは、青だった。どうやら青も、花火が上がっていた事に、気づいていたようだ。
(ここからも花火が見えたのだろうか?)

「青も見た?すごく綺麗だったよね。」

天音は興奮気味に、青に花火の事を話した。

「…僕も花火は好きだけど…、終わった後は寂しいね。」

そんな天音とは反対に、青はどこか寂しそうに窓の方へと視線を移した。

「青…?」

そんな青を天音は心配そうに呼んでみる。
やはり今日もその青い瞳からは、隠し切れない寂しさがにじみ出てしまっている。
それは、天音がここへ来てくれるという嬉しさでも、繕いきれない。

「昔はこの町にも、花火大会があったんだ。」
「へー、そうなんだ。」

青はポツリポツリと言葉を紡いで、天音にそんな話をしてくれた。
でもその表情は、やはりどこか浮かない。

「でも今は、火薬は争いに使われてる。」

その瞬間、青の澄んだ瞳が色を変えた。

「え…。」
「変わったんだよ…この国は…。」

その青い瞳はどこか冷たく、何かを諦めたように、遠くを見つめる。
そんな青の横顔を、天音はじっと見つめた。
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