何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
そして天音がこの村を発つ日を迎えた


「ヤンおばさん!」
「おや、天音ちゃんかい?」

その日の午前、突然現れた天音に、ヤンおばさんは少し驚いた表情を見せた。

「今日もおばさん自慢の牛乳お願い!」

天音は出発の日の今日も、いつもと同じように、ヤンおばさんのお店に牛乳を買いに来た。
おばさんの驚いた顔を見たところ、そんな大事な日に天音が現れるなんて、微塵も思ってもいなかったようだ。

「…いつもありがとうね。」

そして、ヤンおばさんはしんみりした声でそう言って、少し寂しそうに笑った。

「明日からは、じいちゃんの分の牛乳は、リュウが買いに来るから。」

天音はいつもの笑顔で、その事をヤンおばさんに伝えた。
天音はリュウに、じいちゃんの所へ牛乳を届けるようにお願いしていた。
最初はブーブー文句を言っていたリュウだったが、天音のお願いを断る理由はどこにもなかった。
そう、天音は明日からはここにはいない…。

「寂しくなるねー。」

いつもは元気いっぱいのおばさんも、やはり天音がいなくなるのは寂しく、シュンとしてしまっている。

「何言ってるの!!すぐ帰ってくるって。」

しかし天音は、そんなしんみりとした空気を吹き飛ばすかのように、元気に答えてみせた。
ここを離れるのは、ほんの少しの間だけ。
修行が終ってここへ帰ってきて、またみんなと暮らせばいい。天音はこの時は本気でそう思っていた。
ただ、おばさんの元気のない姿を見ていしまうと、やはり胸が熱くなる。

「…そうだね。」


そう言って、ヤンおばさんは、やっぱり寂しげに笑った。



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