何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
その頃、村長とじいちゃんは、この村が見渡せる丘の上にいた。
「今日だって?」
天音が今日発つ事は、もちろん村長の耳にも入っていた。
「ああ。まったく急だ」
今までは気丈に振る舞って、弱音も寂し気な顔も誰にも見せなかった。
そんなじいちゃんも、この時ばかりは、寂し気な瞳を村長に見せた。
「ホッホッホ。天音らしい」
しかし、村長はいつもと同じように柔らかく笑った。まるでじいちゃんを慰めるように。
「もう17歳か…。」
「早いもんだ」
そして、じいちゃんはその寂しげな瞳で、この小さな村を見つめた。
「いいのか?」
「何がじゃ??」
村長が最後にじいちゃんに問う。
それは親友への最後の警告だ。
しかし、じいちゃんは何の事やらと、とぼけたように首を傾げながら村長を見た。
そう、それが彼の答えだった。
「そうか…」
じいちゃんとは長い付き合いの村長は、じいちゃんの気持ちを察して、静かに頷いた。
「あの子が選んだ道じゃ…。」
じいちゃんは遠くを見つめ、ポツリとつぶやいた。
そして、その丘に漂う優しい風が、二人の頬をなでた。
———それが何かの糸によって、たぐり寄せられた道でも…?