何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「何しに来た…。」
月斗はいつものように、彼を冷たく睨み、食ってかかる。それしか、彼に絡む方法は思いつかないからだ。
「まったく…。あんたの脱走癖は相当やな。」
さすがのりんも、この時ばかりは、苦笑いを浮かべ、まさかの人物の登場に、やれやれと首を振る。
「天師教…様?」
そして、辰はまさかとは思いながらも、彼の名を半信半疑で口にした。
辰は城の兵士の中でも、かなり上の地位にあるため、天師教である彼の顔を遠目から見たことは数回ほどあった。
そんな彼の顔を、まさかこんな場所で見るなんて、そんな事あるはずがない。辰は信じがたい、と言わんばかりに、顔をしかめた。
しかも、彼はふらっとたった一人でやってきた。
「いや、まさか…。」
「いや、ホンモンやろ。」
辰は、未だ信じられないという様子だったが、りんはそんな辰に、さらりと、それが現実である事を告げた。目の前にいる彼こそが、天使教に間違いはないと。
「何しに来たってんだよ!」
「決まってんだろう。反乱を止めに来たんだよ。」
我慢ならずに、真っ先に声を荒げる月斗の問いを簡単にあしらい、三人に目もくれず、京司のその目は、真っすぐと前を向いていた。
そう、この町の外へと。
「待て!」
「は?急いでるんだけど。」
京司が一歩、歩を進めると、それを真っ先に止めたのは、やはり月斗だった。
先を急いでいるというのに、それを阻まれた京司は、うざったそうに、睨みをきかす月斗の方を見た。
「笑わせんな。天師教のお前が反乱を止めるだと?」
さらに月斗は、ケンカごしでつっかかる。
「だから、急いでるって言ったの聞こえなった?」
しかし、京司はそんな月斗に構っている暇はない。イライラし始めた京司も、ケンカごしになるしかない。
「チンピラとケンカしている暇はないんだよ!」
「ハ?」
そう言って、京司はグダグダ文句をいってくる月斗を振り切って、また歩き出した。