何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

「天音」

そんな時、じいちゃんが、落ち着いた声で天音を呼んだ。

「何?」
「あれは持っているか??」
「え…?」

天音は、じいちゃんが何の事を言っているのかわからず、キョトンとした顔を見せている。

「十字架…。」

じいちゃんは、たった一言、そう伝えた。
その言葉だけで、天音が全てを理解すると知っていたから。

「じいちゃん…。」

もちろん天音は、じいちゃんの言いたい事を、その言葉だけで瞬時に理解していた。
その十字架とは、天音がこの村の入り口に捨てられていた時、手に握っていたという、片方しかない十字架のピアスの事だ。
天音が幼い頃、じいちゃんから、お守りとして持っておくように渡されたものだった。
もちろんこの日も、お守りとしてそれをポケットに忍ばせていた。

「お前のお守りじゃろ?」

じいちゃんは、じっと天音の目を見て、訴えかける。
そして天音は、そのじいちゃんの眼差しに何かを感じ、ポケットからピアスを取り出した。

ブスッ

「いったーーー!」

リュウがその光景を目にして、思わず大声で叫んだ。
天音は、そのピアスを穴の開いていない耳にぶっ刺したのだ。
それはまるで今の決意を、みんなに示すかのように…。

「へへ。」

天音の耳は次第にジンジンと痛み始める。しかし、天音は痛みを表情に出す事はなく、満足気な笑みを浮かべた。
むしろこの痛みは、今の心の痛みを消し去るには、丁度いい位…。

「がんばってくるんだよ。」

最後に村長が、天音に優しく声をかけてくれた。

「うん…。」

そして天音は、村の入り口の方を向き、歩き出した。

みんなに背をむけて…。

しかし…

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