何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「いいのか?」
その背中を見送りながら、村長がそっとじいちゃんに、語りかけた。
しかし、じいちゃんは真っ直ぐ前を見て、口をつぐんだまま。
「今なら…」
村長は、後髪引かれるその気持ちを、思わず言葉にした。
本当にこれでいいのか?
今ならまだ間に合う…。
「天音が決めた道じゃ。」
しかし、その村長の気持ちを断ち切るように、じいちゃんがそっとつぶやいた。
じいちゃんだって、運命に抗えるのなら、抗いたい。しかし、それはじいちゃんには出来なかった。
だってこれは、天音が決めた事。天音が自ら選んだ道なのだから…。
そして、村長もまた、その言葉の重みを理解し、前を見据えた。
「あの子は、あの十字架をつけた。」
「…そうだな。」
村長は、じいちゃんの言葉に、どこか悲しげに微笑みながら頷いた。
「見ておる…。夕日が…。」
そう言って、じいちゃんは真っ赤に燃える夕日を見つめた。
そして、そんな彼の顔を夕日は照らし続けた。
「いい日だったのぅ…。」
小さくつぶやいたじいちゃんの言葉は、真っ赤な空に吸い込まれるように、消えていった。