何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「なんやー。お前かいな!こんな所で会うなんて珍しいな。今日は雨でも降んのかいな?」
「アイツはどこだ。」

そこに現れたのは、フードを深く被り、顔を隠した月斗だった。
月斗がこんな町中にやって来る事は、相当珍しいはずたが、りんは月斗の顔を見ても、驚くそぶりも見せず、いつものように冗談を言って見せた。
そんなりんと対象に、星羅は月斗がこの町のお尋ね者だとすぐに気づき、顔を思いっきりしかめ、嫌悪感を露わにする。月斗の似顔絵は、お尋ね者として張り紙にされ、町の掲示板などに貼られていたため、星羅もすぐにピンときたのだ。

「アイツって誰や?」
「天音に決まってんだろう。」

りんがとぼけたように、首を傾げて見せたが、当然月斗にそんな冗談は通用しない。
イライラし始めた月斗は、りんの腕を思いっきり強く掴んだ。

「イテテテ!暴力反対や!知らんて!」

りんは、あまりの痛さに、半泣きになりながら、抵抗に出る。

「ちょっ、なんでこの人が天音の名前を知っているの?」

そんな二人が、まるで知り合いかのように話し始めた所に、星羅はいてもたってもいられなくなり、話に割って入った。
それは、あの月斗の口から、天音の名前が出てきたからだ。
いつの間にか、この町の問題児の男と顔見知りになっていた事に、星羅の眉のシワは増えるばかりだ。

「あ、いやー、星羅…。ま、いろいろあって。」

りんが、星羅のますます強くなる、冷たく突き刺さる視線を何とかしなければと試みるが、こんな時に限って的確な言葉は浮かばず、あたふたうろたえる事しかできない。

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