何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

「天音…。」
「んん…?」
「こんな所で寝ていたら、風邪を引くぞ。」

天音は今日も、ジャンヌの墓の前へとやって来ていた。そして、そこにある大きな木にもたれかかって座り、ボンヤリしているうちに、どうやら眠ってしまったようだった。
そこへ現れた辰が、そんな天音を見かねて、声をかけた。

「あれ、辰さん…。」
「もう夕日が落ちる。時間じゃないのか?」

天音はここの所、毎日のようにこのお墓のある場所までやって来て、夕日を見ていた。
しかし、今日はもうだいぶ夕日が落ちている。そろそろ帰らなければ、夕食の時間に間に合わなくなってしまう。

「…辰さんは、どうして城の兵士をしてるの…?」

しかし天音は、辰の心配をよそに、ずっと気になっていた事を、彼に問いかけた。
辰がジャンヌの知り合いだという事は、きっと彼もまた、反乱に加担する立場の人間だったに違いないと天音は推測していた。その考えが正しいなら、国に反発していた彼が今は城の兵士となっていることは、どこか腑に落ちない。

「…。」

夕日の赤で染まっている辰は、口を閉ざしたまま、そこにひっそりと佇むお墓を見つめていた。
その表情は、どう答えていいのか、思案しているようにも見える。

「憎くないの…?」

天音が少し低い声で、ポツリとつぶやいた。それは、自分でも無意識のうちに口に出た言葉。

「さあな。私もジャンヌと共に、反乱軍の一員として国と戦った。でも、本当の意味で、彼女の力にはなれなかったのかもしれない。」

辰は、どこか寂しげな顔を少しだけ上げた。
そして、そこにあるお墓を鮮やかな赤に染めている夕日を見つめた。


< 239 / 339 >

この作品をシェア

pagetop