何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「帰りな。」

しかし、天音のその思いは、一瞬にして砕け散った。
おばあさんは、冷たい声で天音を簡単にあしらい、ここを通る事は認めてはくれない。
天音の熱意は、全くおばあさんに届いていないようだ。

「へ…。」
「いいかげんにしーや!ばぁさん!」

天音がおばあさんの言葉に、ぽかんと口を開け突っ立っていると、またあの変なしゃべり方の男が、横から口を出してきた。

「お前はその変なしゃべり方直してから来な!」
「しゃべり方は、関係ないやろ!!」

そう言って、おばあさんは彼に向かって怒鳴り声をあげた。
しかし、その男も一歩も引かず、あばあさんに睨みをきかしている。
この二人の間に何があったのかは天音は知らないが、どうやらこの二人は犬猿の仲らしく、先程から二人の睨み合う姿しか見れていない。

すると、おばあさんは、男と天音の訴えに無視を決め込み、とうとう手に持つ鍵を鍵穴らしきものへと向けだした。

「ちょ!!待って!私は妃になりに!!」

しかし、天音もここで引き返すわけにはいかない。
なんとか、中に入れてもらわなければと思い、またおばあさんを止めに入る。

「お前さんじゃ無理だよ。いかにも貧乏人じゃないか。」
「…貧乏で何が悪いの…?」

ちらりと天音を見て、おばあさんが鼻で笑った。
何の飾り気のない服を着て、顔もとくに美人でもない。そんな天音が、妃になりたいと言われた所で、誰が認めるというのだろうか。
しかし、天音も負けじと低い声で、反論した。
自分に何の特徴もないのはわかっている。でも、貧乏が無理だなんて、そんな決めつけは納得がいかない。
天音の強い眼差しが、おばあさんを真っすぐと見た。

「ほーー。」

おばあさんは、少し天音に興味がわいたのか、天音の顔をまじまじと見つめた。

「何もまだやってないのに、どうして追い返されなきゃならないのよ!!」

そして火が付いた天音は、つい大声を荒げてしまった。
こんな所であきらめてたまるか。そんな気持ちを発散させるかのように。

「言うな、娘。」
「私は、絶対妃になる…。」

そんな天音の言葉に、おばあさんは、不適な笑みを浮かべた。
そして天音も、ふつふつと湧き上がるその感情を抑える事ができず、おばあさんに鋭い視線をぶつけた。
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