何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「おもろいやないかい。」
横で二人の言い争いを見ていた男が、ニカッと面白そうに笑った。
そんな男の存在をすっかりと忘れていた天音は、ふとその男の方をちらっと見た。
「ろくに化粧もできん小娘が。」
「しなくても、かわいいもん!!」
しかし、おばあさんはまだ、天音に食ってかかってくる。
すかさず、天音はそれに反論してみせる。二人の言い争いは、ますますヒートアップしていく。
「あっはっはっは!」
すると突然、その男が大声で笑い出した。
何事かと思い、天音もおばあさんもびっくりして、彼の方を見た。
「ええな。姉ちゃん!ま、このばぁさんはどうせ化粧した奴が来ても、文句言いよるがな。」
そう言って彼は、チラッとまたおばあさんを見た。
そしておばあさんも、彼を黙って睨み返した 。
その目が「余計な事を言うな」と言っている事を、彼はもちろん理解している。
「ええやないか、ばあさん。わいは、この姉ちゃんイケると思うで!」
「でしょ!」
彼は天音に何かを感じたのか、ニコリと笑ってそう言った。
天音もその笑顔に答えるように、彼を見て笑った。
ギ―――。
その時、大きな門が不気味な音を立てて、開いた。
「この先は天師教様のおひざ元、城下町じゃ。簡単にこの通路を通れるとは思うな。」
おばあさんには、さっきまでの勢いはなく、低い声で落ち着いてそう言った。
どうやら、先に折れたのはおばあさんの方だった。
おばあさんは、天音がその先へと進む事を認め、門を開けてくれたのだ。
しかし、その門の中は真っ暗で、通路も何も見えない。