何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「…ふざけるな…。」

その時、下を向いたままの月斗がゆっくりと立ち上がった。

「え…?」
「何で…気づかねんだ…。」
「月斗!」

りんが、今までにない程の剣幕で、月斗の名を叫んだ。
そんなりんの叫びを初めて聞いた天音は、ビクッと肩を震わせた。

「さっさと、帰れ!」

『その事を天音は知らない…。』

雨よりも冷たい彼の瞳が天音を睨む。

「やめろや!」
「お前、俺の言う事なんでも聞くって言ったよな!じゃあ、村に帰ってもう一生戻ってくるな!」

りんが止めさせようとしても、それは無理な話。
月斗の罵声は止まる事はなく、容赦なく天音にあびせられた。

「…。」

天音は、そんな月斗の苦しそうな表情を、ただ見つめる事しかでない。

「もう二度と俺の前に姿現すな!!」

ザー

月斗の悲痛なその叫びは、雨の音に混ざって響いた。

「月斗…。」
「いいかげんにせーや!!」

そして、我慢ならなくなったりんは、また雨の音をかき消すくらいの大声をあげた。

「いいな。」

そう言って、月斗は天音に背を向け、走り始めた。
降りしきる雨の中、天音は、ただその背中を見つめる事しかできなかった。
彼女の足は、まるで根がはっているかのように、その場から動けないでいた。

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