何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「天音…。」

そんな天音を見かねて口を開いたのは、りんだった。

「…。」
「今は帰った方がええ。」
「でも!」

(そうだ…。天使教さんに会わなければ!)
天音は、今の衝撃でどこかに追いやられた本来の目的を思い出し、足はまた自由に動き出した。

「今は町も停電中で危険や。それに、こんな大雨の中、天使教が外に出て行くわけないやろ?」

りんは天音を優しく説得しにかかる。
何とか天音を諦めさせ、今すぐ城に帰さなければならない。
それがまるで、自分の使命のように。

「何を聞いたかしらんけど、天使教は外にはおらんて。それはガセネタや。」

ザー

―――天音をこの先に行かせるわけにはいかん。


「ハックショーン!」

その張り詰めた空気を壊すかのように、天音は我慢できず、大声でくしゃみをした。

「ホラ。風邪ひくで。」

りんはその様子を見て、少しだけ笑った。

「わかった…。」

天音はりんの言葉を受け止め、城へとひき返す事にした。
遠くでは、まだ雷がゴロゴロと不気味に音を立てて、喉を鳴らしていた。
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