何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
天音はなぜか見知らぬこの男と、閉じられた門の先の真っ暗な道を進む事になった。
扉が閉まったこの通路は、ヒンヤリとしていて静寂に包まれていた。

「いや~、助かったわ~。」

彼は相変わらず能天気な声で、天音に話しかけてきた。

「ね、目開けてない?」
「当たり前やがな。」

もちろん天音は、おばあさんに言われた通り目を閉じたまま、そこにあるかもわからない道を、一歩一歩ゆっくり進んでいた。
そして天音は、やはり気になって、彼にも尋ねてみた。
どうやら彼もちゃんと言いつけを守り、目を閉じて進んでいるようだ。

「ふーん。ね、あなたは何しに町へ行くの?」

天音は興味本位で、何の気なしに彼に尋ねてみた。
彼は、一体何しに城下町に行くのだろうか。いや、もしかしたら城下町の人なのか?
城下町の人間はみんなこんなしゃべり方なのか?
そんな、いろんな妄想を膨らませながら…。

「いや、別に。姉ちゃんこそ、ホンマに妃になりたいんか?」
「うん!」

彼は自分の答えは適当にはぐらかし、逆に天音に質問返しをしてみせた。
彼からの質問に天音は、何の疑問も抱くことなく、間髪いれず自信満々に答えた。
だって、そのために村を出てここまで来たのだから。

「知らんでー、城の中におもろいもんなんて、何もないで…。」

しかし、そんな天音とは真逆で、彼はつまらなそうに、そうつぶやいた。
どうやら彼は、城をあまり良くは思っていないようだ。 もちろんその理由は天音にはわからない。

「そうかな?」

しかし、天音は勢いでここまで来たようなものだったが、そうは思わなかった。

「期待してんか?」

天音の答えに、彼がまた疑問を投げかける。
彼は知らず知らずのうちに、天音にどんどん引きこまれていっていた。
彼女は一体何を期待して、妃になりに行くというのだろう。
なぜかその答えを知りたくなった。

だってこの国は…。

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