何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

それから数日後

コンコン
ガチャ

皇后はノックされたそのドアをそっと開け、顔だけをのぞかせた。

「なんですか?」

そして、その扉の外に立つ人物を目にして、皇后は眉をひそめた。

「天師教様は…?」

天使教の様子が気になり、宰相は彼の部屋を訪れていた。もうこれで何度目だろうか…。
皇后は、自分と医者以外は、この部屋の中へと立ち入るのを禁じたため、宰相は1日に何度も、ここへと足を運ばなければならなかった。
医者は、京司がいつ目を覚ましてもおかしくないと言っているが、彼はいっこうに目を覚まさない。

「心配なさらなくて結構。あの子は大丈夫です。」

皇后はそう言って、宰相を冷たくあしらった。
こんなやり取りが何日も続いていた。

皇后はわかっていた。
彼らは、天師教を道具としてしか見ていない事を。
そんな彼らが心配なのは、天使教が使い物になるかだけ。彼の体の事を心配などしてはいないのだ。
そんな彼らを、皇后が快く受け入れるわけはない。
だからと言って、宰相も天使教である彼を全く無視するわけにはいかず、仕方なく何度も足を運んでいた。

「目を覚ましたらお呼びすると、言ってるじゃないですか。お帰り下さい。」

そう言って皇后は、今日も勢いよく扉を閉めた。

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