何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「あ、あの、ありがとうございます。」

天音は、授業が終わり帰ろうとする士導長に駆け寄った。

「ん?」

そんな天音の呼び止めに、士導長は足を止めた。

「士導長様が、頼んで下さったんですよね?」

天音は士導長が、上に掛け合ってくれたのだと思っていた。
なぜなら、村へと帰りたいという事を話したのは、士導長と辰だけ。
辰がそれをこの城の誰かに話し、その希望を通すのは、どう考えても現実的ではない。
さすがに無知な天音にもその事は分かっていた。

「…さぁのう…。」

しかし士導長はそう言い、しらばっくれたままその場を去って行った。

言えるはずがない…。
それを叶えたのは他でもない、天使教本人である事など…。



「やっぱり優しいね士導長様は。」

そう言って隣で華子が笑った。

「うん。」



―――― 私はやっぱりバカだった。


知らぬは罪…。


この世には知らなくていい事があるってあなたは言ったけれど、もし、知らなくてもいい事を後で知ったらどうなるの?
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