何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「やっぱすごいなー!これが城下町か!」
地球国の中央部に鎮座している唯一の城の元に作られたのが、この城下町であった。
天音は急ぎ足ながらも、そのメイン通りに並ぶ様々なお店や、売られている物に目移りしながら、城へと向かっていた。
メインストリートに並ぶ店には、食べ物だけでなく、装飾品、日用品など、たくさんの店が立ち並んでいて、天音の村では見たことのないような、珍しい物がたくさん売られている。また多くの人々が行き来し、賑わいをみせている。
なぜなら、この城下町は貿易の中心地でもある。
始めて見るこのような状況に、天音の胸が躍るのも無理はない。
「おっといけない、急がなきゃ!」
しかし、そんな好奇心を今は何とか閉じ込めた天音は、城へと小走りに走り出した。
城へと続く長いその道を、足早に天音がかけていく。
その道のりを難なく走りぬいた先に、大きく開けた広場のような場所へとたどり着いた天音の前には、城へと続く長い長い大階段が待ち受けていた。
「にしても、城でかい!!」
そして、その階段を登り切った先には、この国の城がそびえ立つ。
城の周りには、石が高く積みあがった塀に囲まれていて、灰色の棟が何棟も連なっている。この城内が一体どの位の広さなのかは、天音には想像もつかない。
政は全てここで行われ、ここに普段住むのは、政を行う者と、この国を治める天師教とその一族である皇族。
まさかそんな場所で、田舎育ちの村娘である天音が暮らす事になるなんて、誰が想像しただろうか。
「妃候補か?」
天音が大階段を上り終えると、そこにはまた、規格外の大きさの門が天音を迎えた。その門の前に立ち、ポカンと口を開けたまま城を見上げていると、門番らしき兵士が声をかけてきた。
この国の治安を守るのは兵士達で、彼らは城を守るのはもちろん、国の争い事の鎮圧なども行う、武力に優れた者達であった。
「あ、はい!」
「早く中に入れ。」
兵士に促されて、天音は歩をさらに進め、その門をくぐった。
「広い…。」
天音は、初めてこの城へと初めて足を踏み入れた。もちろん想像はしてみたが、そんな天音の貧相な想像を遥かに超える城の中に、天音は唖然としていた。
表門をくぐって、まず目に飛び込んできたのは、吹き向けのエントランスといくつもの階段、長い通路。まるで迷路のようだ。
永延と続く通路に敷かれているのは、白い大理石。
「お前が最後のようだ。」
入ってすぐの所にいた兵士が、書類に目を通し、天音に声をかけた。
そこには簡易的な机が置かれていて、どうやら彼は受付係のような役目のようだ。
妃候補の応募には、事前に城へ手紙を出し、応募をする事になっていた。
もちろん天音も、村長さんの力を借り、昔ながらの伝承鳩を使い、城へと応募の旨を知らせていた。
「さあ、早く部屋に行け。分かっていると思うが、妃候補に関係のない場所には、足を踏み入れるなよ。」
兵士がそう天音に忠告をし、妃候補の宿舎のある場所が書いてある地図を渡した。
建物の中なのに地図なんて、やはりこの城のスケールは天音の常識を超える事ばかりだった。