何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「あ!もう行かなきゃ。じゃ。」

天音が京司に背を向け、歩き出そうとする。

「あ、天音!」

その瞬間京司は、彼女の名を思わず呼んだ。
何となく彼女を引き止めておきたかった。もっと彼女と話をしていたかった。

「ん?」
「ま、またな。」

京司は、自分の気持ちとはうらはらに、また恥ずかしそうに口ごもりながら、そんなどうでもいい挨拶を口にした。

「うん。…ハックション!!」
「ハハハハ。大丈夫か?」

突然、天音が大きな口を開けて、豪快にくしゃみをした。京司はそんな天音を見て、また大声で笑った。
やっぱり彼女といると、なぜか自然と笑みがこぼれてしまう。
京司は、こんな気持ちになったのは、本当に久しぶりだった。

「うん!じゃ、またねー。」

そして、彼女はキラキラ輝く笑顔を残して、走り去って行った。



…なぜだろう、彼女には知られたくなかった。

自分が…

「玄武の宮様ー!!どこですか?」

遠くからその名を呼ぶ声が聞こえた。
誰かが皇太子、玄武の宮を探しているようだ。


そう、知られたくなった…。
まさか自分が玄武の宮だなんて。


「クソッ!その胸糞悪い名前で呼ぶなって!」


京司が小さな声で、そう吐き捨てた。


そう、彼こそが、この国の次期皇帝、天師教。正にその人物だったのだ。


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