何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
その鐘の音は15時を知らせるものだった。そして、その時刻に合わせ、全妃候補が大広間へと集められていた。

「えー、諸君には」

そして、大広間では、ここでの過ごし方などの説明が始まっていた。
ここでの暮らしは、どうやら寮つきの学校のような仕組みだ。
修行といっても難しい事をするわけではなく、一般教養を身につけるための授業を9時~15時まで受ければいいだけだ。

「長いねー、、話…。」

隣に座る華子は、もう飽きたのか、あくびを噛み殺しながら、天音に小声で話しかけて来る。

「…う、うん。」
「あの人が、ここでの私達の先生?みたいな人なんでしょ。」
「うん。士導長様だって。」

今前に立ってしゃべっている、士導長は、妃候補の教育を行う者の、一番上に立つ偉い先生だ。
茶色のローブを羽織り、髪は白髪の老人で威厳を放っていた。

「えー、明日は玄武の宮様の即位式だ。」

そして、士導長は明日の事について話し始めた。

…玄武の宮様…?

天音はその名を耳にして眉をひそめた。

「誰だっけそれ?」

その名前はどこかで、聞いた事がある名前だが、思い出せない。
天音は村でおじさんから聞いた話をコロッと忘れていた。
そこで天音は華子に小声で聞いてみた。

「へ?だから、玄武の宮様が、次の天師教様に即位するんだよ。」

華子は驚きの眼差しを天音に向けた。そう、それはこの国の常識。ましてやこれから天使教の妃になろうと言うのに、そんな事も知らないなんて、ありえない。
華子の目がそう物語っていた。

「即位?」

しかし天音には、まだキョトンとした表情がはりついたまま。
そんな天音を華子はさらに、目を丸くして見つめていた。
一体どこでどう暮らしていたら、そんなに無知なまま育つというのだろうか。
ましてや、そんな彼女が妃になろうなんて…。
華子の頭にそんな疑問が生まれるのも無理はない。

「それでは、明日。」

どうやらここで、士導長の長い話は終わったようだ。
これで全ての説明は終わり、妃候補達は解散となり順次部屋へ戻るように指示があった。

「んー、長かった!」

華子が長い説明からやっと解放され、大きく伸びをしながらそう言った。
天音は、華子の大きなその声がどこまで聞こえているのかと、ソワソワしながら辺りを見回していた。

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