何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「もうー。起きなきゃ即位式、遅刻するよー。」
「む…り…。」
しかし、天音はそれでも動く事はなく、ただ苦しそうな声を絞り出した。
「星羅ーー!!」
華子がやっとその異変に気付き、すぐそこにいる星羅を大声で呼んだ。
そして、華子の慌てた声に、星羅がすぐ様駆け寄る。
「天音、すごい熱がある!!」
「げほげほ。」
華子が天音の額に手を当てると、とても熱く、彼女の顔は真っ赤で目は虚ろだ。そして、苦しそうにせき込み始めた。
どうやら天音は、風邪をひいてしまったらしい。
しかし、天音は何とか体を起こそうとした。
「寝てなきゃダメだよ。」
そんな天音を華子が起き上がらせないように制した。
「でも、今日は…。」
天音が力なくつぶやいた。今日は大事な即位式だっていうのに…。
しかし、こんな状態で即位式に行くなんて、誰がどう見ても無理に決まっている。
「私が士導長様に話してくるから、寝てなさい。」
星羅はそう言って、部屋の扉に向かって歩き出した。
「星羅、私も…」
華子もいてもたってもいられなくなり、星羅の後に続く。
「あなたは、薬もらってきて。」
「ラジャ!」
星羅がテキパキと華子に指示を出し、華子はそれに従った。
「二人とも、ありがとう。」
天音は枯れた声を振り絞って、二人になんとかお礼を言った。
いい人達と同じ部屋でよかった。二人が部屋を出て行き、天音はその事を一人噛みしめていた。
二人は、優しくて頼りになるルームメイトだ。
天音は今までほとんど風邪を引いた事も、病気になった事もなかった。
そのため、心細い気持ちになっていたが、二人がいてくれて本当に安心した。
「昨日のコイのせいかな?」
部屋に一人残された天音は、力なくそうつぶやいて、ゆっくりと目を閉じた。