何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「ハックション!」
「だ、大丈夫ですか?玄武の宮様。」
衣装合わせの途中で大きなくしゃみをした彼を、心配そうに女官が見つめた。
「ああ、問題ない。」
そう答えたのは紛れもなく、次の天使教になる人物、京司だった。
彼はまだ、若干19歳。成人さえしていない。
しかし、父である前天使教が一年前に亡くなった事により、急遽彼が次の天使教に今日即位する事になった。
そう、いつまでも、その席を空白のままにしておくわけにはいかないのだ。
もちろん彼のその年齢は、民衆には公表されていない。まだ19の青年が、この国の天使教に即位し、神として崇められる。
そんな事を公表すれば、民衆の不信感が煽られるだけだとわかっていたから…。
「玄武の宮。」
そこへ皇后がやって来て、彼のその名を愛しそうに呼ぶ。
「母上。」
「こんなに、立派になって…。」
玄武の宮の母である皇后は、即位式の衣装を身にまとった彼を見て、目を潤ませていた。
昨日の後悔の言葉は胸に閉まったまま。
「…。」
しかし、京司は複雑な表情で目線を床へと落とした。
どこから、どう見ても、その表情は今日のこの日には似つかわしくはないものだ。
「父上も喜んでおられる事でしょう。」
しかし、彼のその表情に構う事はなく、皇后はにっこりと京司に微笑んだ。
そう、ここで引き返すわけにはいかない————。
「…。」
しかし京司は下を向いたまま、口を固く結ぶ事しかできなかった。