何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「そうかい。風邪で高熱…。それは大変じゃ。」
士導長の執務室を訪れた星羅は、すぐ様士導長へ天音の状態を報告していた。
「はい。」
「まぁ、慣れない所へ来て、疲れも溜まったのかもしれんな。仕方ない、今日は一日安静にしてなさい。」
「ありがとうございます。」
士導長が優しい言葉をかけ、天音の変わりに星羅が頭を下げた。
「にしても、もったいないのー。」
「え…?」
すると、残念そうな顔で士導長がポツリとつぶやいた。
しかし、星羅はその言葉の意味が分からず、首を少し傾げた。
「未来の旦那様になるかもしれない方の、晴れ姿なのにのー。」
士導長はなんとも呑気な事を口にした。天使教の事を未来の旦那様なんて、呑気な言葉で表せる事ができるのは、士導長が天使教と親しい間柄だからか、それとも彼の性格なんだろうか…。
「…そうですね。」
星羅はそんな事を考えながら、どこか自分とは関係ないと言った表情で答えた。
「妃に選ばれる、自身があるのかい?」
士導長はそんな星羅の気持ちをいとも簡単に読み取り、そう尋ねてみせた。
彼女はどこか他の妃候補とは違う雰囲気を纏っていたのは、士導長も感じていた。
妃になる事はまるで他人事のような…。
「…いえ、私はそんな…。」
星羅は士導長から目線を外し、答えを濁した。
普通なら、やる気を見せるために、自信があると答えるところだが、星羅は違った。
星羅のその真意は、やっぱりわからないままだ。
「ホッホッホ。まあ、未来は誰にもわからないものじゃからの。」
「…はい。」
星羅の気持ちを無理に聞き出そうとはせず、士導長はそう言って笑った。
その言葉に星羅はただ頷いた。
「天音に、お大事にと伝えておくれ。」
そう言って、士導長は去って行った。