何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】


「それより、あの人誰!?」
「へ?」

すると、華子が思い出したように、急に天音に詰め寄った。
天音は急にそんな風に振られても、華子が何の事を言っているのか、見当もつかない。

「名前聞くの忘れたー!」

そんなポカンとしている天音の横で、華子がまた突然叫び出した。
しかし、天音は未だ華子が何の話をしているのか、さっぱりわからないまま。

「何か変なしゃべり方の人で、わいは天音の知り合いや!て言ってた。」
「あ、わかった。りん!」

天音はそのしゃべり方でピンときた。
この町に来たばかりの天音が出会った人は、数限られている。
その中でそんな喋り方をするのは、この町の入り口であった彼だけなのは、間違いない。

「りんて言うんだー。紹介してよ!」

華子がニッコリと笑った。華子はまだ一目しか会った事のないりんを、どうやら気に入ってしまったようだった。
確かにりんは背がすらっと高くて、顔もキリっとしているし、話も面白い。一般的にはモテる部類に入るのだろう。

「へ?でも会ったのは一回だけだし。」

天音がりんに会ったのは、この町に入る時のただ一度だけ。
正直、そんなに親しいわけでもないし、彼がどこの誰だか素性もよく知らない。華子に紹介できるかどうかは疑問だ。

「あなた、妃になる気あるの?」

横から星羅が、とうとう我慢できず、冷ややかにそう言った。
確かに、根本的な問題はそこ…。
天使教の妃になるためにここに来たはずなのに、なんとも気が多い話だ。さっきまでは天使教の顔がどうのって言っていたのに。

「まぁ、それはそれ!妃になれるとは限らないしー。で、彼どこに住んでるの?」

いわゆる肉食系女子の華子は、グイグイと天音に詰め寄る。
そんな華子に、結婚出来れば誰でもいいのだろうか…。。と思わず突っ込みたくなるのだが…。

「しらなーい。」

しかし、天音は本当にりんの素性は何にも知らない。
彼は、この町に何をしに来たのかも、答えてはくれなかった。

「えー。でも、町に行けばまた会えるよね!」
「ていうか、何でりんが出てきたんだっけ?」

天音は、そもそもの疑問に立ち返った。
そういえば、一体どこからりんが出てきて、どうして華子がりんをしっているのだろうか。

「彼が、倒れたあなたを運んでくれたのよ。」

冷静な星羅が、天音のその疑問に即座に答えてくれた。

「そうだったんだ!今度会ったらお礼言わなきゃ!」

天音はやっとここで、りんが自分を助けてくれたのを理解した。
…そっか。りんも、即位式見に来てたんだ。

『知らんでー、城の中におもろいもんなんて、何もないで…。』

りんは、この国になど、興味がないのかと思っていたが、そうでもないのかもしれない。
天音は密かにそんな事を考えていた。

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