何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
その夜、天音はまたあの池に足を運んでいた。
しかし、今日は京司の姿はなかった。

「今日は、満月だー。」

この中庭には天井がなく、月がよく見える。
大きな満月が天音をまるで見下ろしているようだ。

「じいちゃんも、見てるかなー。」

天音は、そんな満月を見て、無性に寂しさを感じていた。

「やだな…ホームシックかな…。」
「誰?」

その時、突然天音の背後から、聞き慣れない声が聞こえた。
確かな事は、この声は、京司ではない。

「何やっているの?」

天音が恐る恐る振り返ると、そこには、天音と同じくらいの年の青年がいた。
背も天音と同じくらいで、少し低いが、綺麗な顔立ちで、サラサラの茶色い髪の美少年という言葉がぴったり。
天音は突然話しかけられ、驚き慌てたが、それが兵士や先生ではない事に少し安堵した。

「月を…見てたの。」

――― 青い目

よく見るとその少年の目は、まるで吸い込まれそうなほど、青く澄んだ色をしていた。

「今日は満月…。」

そして少年は、どこか儚げにつぶやいた。

「え、うん…。」

(この声…どこかで…。)

その時、天音はその声に聞き覚えがある気がした。

タッタッタッ

すると少年は、突然駆け出して去って行った。

「あれ?行っちゃった?」

彼もこの城の人間なのだろうか?
そんな事を思いながら、天音はまた月を見上げた。

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