私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
本殿で迷子になって歩き回ってた時、アニキと皇王子を窓から発見した。その時に、二人を呼んでいた、あの人物。あれが、廉璃さんだ!
「廉璃は常に皇王子の護衛についています。決してそばを離れず、来客があるときは、その身を隠して様子を窺う」
(ってことは、私が皇王子の部屋に遊びに行ったときもいたってこと?)
私は、まじまじと廉璃さんを見た。
廉璃さんは、相変わらず集まった視線に気まずそうにしている。
「廉璃の能力はテレパシー。何か危険があれば、すぐに将軍ないし、亮に連絡が行くようになっている。将軍に連絡が行けば、すぐに駆けつけられてしまう。だから、廉璃を離す必要があった。そのために、ゆりちゃんを襲い、将軍を襲った。そうすれば、将軍は廉璃をゆりちゃんにつけるでしょう。被害を受けた事がない者より、被害に遭った者に護衛をつけたくなるのは、人間の心理です。あとは、廉璃がいなくなり、新しい護衛が到着する前に、皇王子を殺せばいい」
淡々と言って、月鵬さんは志翔さんを見据えた。
「最初から、鈴音は私達の目を惹き付けるための囮」
その声音は、どこか嫌悪感が漂っていた。
月鵬さんは冷たい瞳で、志翔さんを見据えた。
「そこの罪人を引っ立てよ!」
その声に応じて、いつの間にか集まっていた兵士が槍を手に持ちながら、志翔さんを拘束した。
もっとも、志翔さんはもう動けそうにもなかった。
満身創痍の志翔さんに、安慈王子は悲しげな瞳を向けた。
「何故、弟の暗殺など……」
呟かれた声に、志翔さんはキッと顔を上げた。
「貴方様の、貴方様方のためにございます!」
志翔さんは咳き込みながら、皇王子を憎々しげに睨んだ。
「あんな、あんな女の子供なぞに、王の座をくれてやるものですか! 王の座は、正妃様の血統である、葎様か、安慈様が就くべきなのです! 正妃様は、正妃様は、あの女のせいで死んだのよー!」
狂ったように喚き散らす志翔さんの肩に、葎王子がそっと手を置いた。
葎王子は、優しげな眼差しで、志翔さんを見る。
「志翔、母は病で亡くなったんだよ。決して、皇の母君のせいではない」
「いいえ! いいえ! 正妃様は、あの女を憎んでおられた! 病に伏してからも、憎んで、憎んで、恨んで……!」
憎しみに悶えながら、搾り出すように言った志翔さんは、鋭い瞳でアニキを睨んだ。
「私は知っているのですよ! あの女の! あの女の! あの女の! 愛した者は、実の兄である――お前だと!」
――花野井剣之助!
彼女は、気が狂ったようにアニキの名を叫んだ。
そして、汚らわしいとなじり、血反吐を吐いて気絶した。
頭がついていかなかった。
(この人は、今なんって言った?)
みんなの視線を一心に浴びたアニキは、覚悟を決めたような表情をした。
月鵬さんが、ぽつりと呟く。
「どういうこと……?」
そして、怒りを含んだ目で、アニキに詰め寄った。
「実の兄妹ってことは、皇王子の母君は、柚(ゆう)様なの!?」
アニキは、静かに頷いた。
月鵬さんは怒りで戦慄き、次の瞬間、アニキの頬を張った。
大きな、鈍い音が、部屋中に響き渡った。