私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
* * *
村には三十分程で到着した。
江戸時代のような家々が並んでいたけど、私達が案内された建物は、石造りに瓦屋根と変わった外装だった。
大きなお屋敷って感じの家だ。
その屋敷から、一人の男が出てきた。小太りで背の低い中年の男は、嬉しそうにアニキに駆け寄って行った。
たしか岐附では、こういう家に住んでいるのは貴族か金持ちかってアニキが言ってたっけ。たしかに、あの小太りの男は小奇麗な格好をしている。
「ここは?」
喰鳥竜から降りたばかりの兵士に尋ねると、彼は私に手を差し出しながら答えてくれた。
「村長宅です」
「てっきり軍事施設かなんかに行くのかと思ってました」
「滅相もない。花野井将軍をそんなところでお待たせするわけにはいきません。王都・附都(ふと)からの迎えはまだ掛かるでしょうから」
彼は私を喰鳥竜から降ろすと、アニキを見る。なんだかキラキラしているような目だ。憧れの存在を見る目という感じ。
「迎えってどれくらい掛かるんすか?」
喰鳥竜から降りた翼さんが、彼に尋ねた。
「そうですね。かなり速くて五日、遅くても十日と言ったところでしょうか」
「結構掛かるんすねぇ」
「ええ。何せここは、国境沿いの村ですから」
兵士は苦笑して、「ではこれで」と告げて、喰鳥竜の手綱を引いて仲間の元へと歩いて行った。
引き上げて行く小隊に、深くお辞儀をする。
顔を上げると、翼さんも小隊を見送っていた。
「王都ってどの辺にあるんでしょう?」
「俺は岐附の地理に明るくはないですが、確か国の中腹らへんでしたよ」
「へえ。美章は?」
「美章もそんくらいっすね」
「へえ」
私が頷いていると、さっきまで小太りの男と話していたアニキがやってきた。
「屋敷の中、自由に使って良いってさ」
にかっと笑いながら、アニキは親指を屋敷に向けた。